—木目金が辿ったグローバルな旅路と変容の軌跡—

はじめに

木目金(Mokume Gane)は17世紀の江戸時代に刀装具職人によって創始され、長らく日本国内のみで発展してきました。しかし、明治期の廃刀令を機に純粋な装飾品として再定義され、やがて欧米へと伝播。戦後の復興と共にアメリカ・ヨーロッパで再教育が行われ、21世紀には国際的な材料科学や芸術領域にも広がるまでに至りました。本稿では、それぞれの時代区分を「江戸時代(開始〜鎖国期)」「明治〜大正期」「戦後〜現代」という軸で追い、その技術と文化の国際交流を明らかにしていきます。


1. 江戸時代:国内で成立し極秘裏に受け継がれた技術

1-1.起源と初期普及

木目金は、刀装具技術を伝承する**正阿弥伝兵衛(Shoami Denbei, 1651–1727)**によって考案されました。
彼は、銅・赤銅(shakudo)・銀・金などの非鉄金属を積層し、鍛錬と彫りで木目模様を創出したとされます (ウィキペディア, James Binnion Metal Arts, Steven Jacob)。
鎖国下においても武士階級内部には広まりましたが、海外への技術伝播は皆無で、完成工程は口伝と門外不出の形式で継承されました(ウィキペディア)。


2. 明治〜大正期:廃刀令以降の技術転用と欧米輸出

2-1.武装装飾から逸品工芸へ

1868年の廃刀令により武士階級の刀装具需要は消失しましたが、職人は木目金を帯留め・装身具・茶道具へと応用し、明治政府の輸出政策の後押しを受けて欧米へ流通しています。
輸出例として、明治期にパリ万博・サンフランシスコ万博などで木目金装飾品が高評価を受け、「Japanesque Silver」の潮流の一翼を担ったと推測されます。ただし、個別展示記録には限りがあり、各展覧会でどの工房の作品が出典かは不明瞭です(不確定)。


2-2.欧米における模倣と理論化

アメリカのRaphael Pumpellyは1866年に『American Journal of Science』で木目金技術を紹介し、**“gold, shakudo, silver, rose copper”などを交互に数十層重ねた「ダマスク模様金属」**と述べています (Steven Jacob)。
英国ではSir Alfred Gilbertが1888年にプレストン市長鎖の中央装飾に木目金技法を模倣使用したと記録されています(James Binnion Metal Arts)。
また、Tiffany社のEdward C. Moore(1877–1889頃)はパリ万博でJapanesque Silver部門賞を受賞し、24層の貴金属積層銀器を展開 (ウィキペディア)。
ただし、これらは一般には“はんだ接合”されたものであり、日本の固相拡散接合とは異なっていたとされています(Steven Jacob, cdn.ymaws.com)。


3. 忘れられた技術の再発見―戦後アメリカにおける復興

3-1.SIUCにおける講習と教育

1960〜70年代に、Southern Illinois University at Carbondale(SIUC)でノリオ・タマガワ氏のデモを受けたHiroko & Eugene Pijanowskiによって木目金技術がアメリカで再び脚光を浴びました(James Binnion Metal Arts)。
1977年のSIUCワークショップは多くの職人に影響を与え、固相拡散接合技術としての洗練につながっています。


3-2.現代アメリカの技術体系化

James Binnion(JBMA創設者)が1991年以降、**真空拡散接合+研磨による「小規模現代木目金」**を体系化し、電気炉+木炭による拡散炉の使用方法を確立(James Binnion Metal Arts, James Binnion Metal Arts, cdn.ymaws.com, shiningwave.com)。
同様に、Chris Ploof & James Binnionによる「Santa Fe Symposium 2016」での技術紹介は、科学的アプローチによるデモンストレーションとして注目を集めました (santafesymposium.org)。


4. 現代:材料工学・産業応用・国際共同研究へ

4-1.材料開発と科学的アプローチ

欧米ではSteve Midgettが科学的視点で木目金を再構築し、材料工学として普及させています(Steven Jacob)。
また、Chris Ploofらが摩擦攪拌接合(FSW)など現代工作機械技術を取り込む試みも進行中(Santa Fe Symposium)(Steven Jacob, ウィキペディア)。


4-2.国際協働と展覧の現在地

素材メーカーや工芸家間での国際共同プロジェクトは増加し、英国・ドイツ・北欧にも現代木目金を取り入れる作家が多数存在しています。
たとえば、CÓILÍN Ó Dubhghaill(英国)は木目金の材料史を文化的視点で再評価(ウィキペディア)。
またドイツでは技術者が産学連携でAshokuなどの素材設計・加工技術を研究し始めています(推測を含む・不確定)。


5. 木目金の国際交流史まとめ

時代主な動向
江戸時代国内技術として発展、刀装具職人による密伝形式、海外伝播なし
明治〜大正期廃刀令後の装飾品転化、博覧会輸出、欧米模倣技術の登場(はんだ接合系)
戦後〜1970sPijanowski夫妻による技術再流入、SIUC研修会での教育的普及
1990年代〜James Binnionによる現代技術統一化、電気炉使用法の確立
21世紀現在学術・材料工学との融合、欧米における科学的研究と産業応用への展開
展望国際共同による素材開発、技法進化、デジタル工学統合への潮流が進行中(不確定)

おわりに

木目金は約400年の歴史を持つ日本の伝統技法から、

  • 明治期→欧米装飾品への転用、
  • 戦後→アメリカにおける技術再発見・教育普及、
  • 現代→学術・科学・デジタル工学との融合へ進化し続けています。

今後も、国際協働による新材料開発・技法革新・教育体系化が進むことで、木目金はさらにグローバルな芸術・産業の地平へと飛び立っていくでしょう。


※引用元:James Binnion Metal Arts(歴史・技術論)(James Binnion Metal Arts)、Steven Jacob(欧米模倣期・Pijanowskis)(Steven Jacob)、Santa Fe Symposium資料(santafesymposium.org)、Pumpelly論記録(Steven Jacob, shiningwave.com)、SIUC講習会資料(Polymer Art Archive, aaa.si.edu)、ドイツ・英国研究者言及(ウィキペディア)。
不確定情報には文中明記しています。

【参考文献】

2000年4月9日付 朝日新聞 東京地方版/秋田 29頁、

2001年9月1日付 朝日新聞 東京地方版/秋田 32頁、

2004年8月28日付 朝日新聞 東京地方版/秋田 26頁、

2009年11月6日付 朝日新聞 大阪地方版/石川 30頁、

2005年10月19日付 毎日新聞 地方版/秋田 24頁、

「宝石の四季」 No.198、 No.199
「技の伝承 木目金の技法について」
アートマニュアルシリーズ メタルのジュエリークラフト

「人間国宝・玉川宣夫作品集」燕市産業資料館

「金工の伝統技法」香取 正彦,井尾敏雄,井伏圭介,共著

「彫金・鍛金の技法I・II」 金工作家協会編集委員会編
Wikipedia(ウィキペディア)
「金工鐔」光芸出版

MOKUME GANE JEWELRY HANDBOOKS (IAN FERGUSON著)

Mokume Gane – A Comprehensive Study (Steve Midgett著)

Mokume Gane. Theorie und Praxis der japanischen Metallverbindungen (Steve Midgett著)
Mokume Gane: How to Layer and Pattern Metals, Plus Jewelry Design Tips(Chris Ploof著)

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