―木目金製作の基礎を支える革新的設備技術―
目次
はじめに
木目金(Mokume Gane)の製作工程の第一歩である「積層・鍛接段階」では、異種金属(銅・銀・赤銅・四分一など)を何層にも重ね、圧力と熱で一体化させる「拡散接合」工程が行われます。
従来は熟練職人による手作業が中心でしたが、近年は工作機械・熱処理装置の精密化により、安定した拡散接合がより効率的に行えるようになってきました。
本稿では、この工程に関わる最新設備を、メーカーや品番を可能な範囲で明示しつつ、導入事例とともに紹介していきます。
1. 高精度積層用プレス機の導入事例
● 概要
積層時に金属同士がズレないように一定圧力を加えるプレス工程では、均等圧・精密位置決め・可変制御が重要です。
● 導入機械例
◯ アマダ製「HFE3iシリーズ」ベンディングマシン
- メーカー:アマダ(AMADA CO., LTD.)
- 特徴:AI圧力制御システム搭載、金属厚自動検知、±0.001mm圧制御可能
- 導入例:高岡の工房「Mokumegane-Lab」にて、積層時の初期圧着工程に使用
- メリット:板材の“反り”や“片寄り”を抑制し、加熱前の層ズレを極限まで低減
◯ 日精(NISSEI)「NSP-25」サーボプレス
- メーカー:日精株式会社
- 概要:微圧から高圧まで連続変化可能な精密制御サーボプレス
- 適用理由:赤銅や四分一など、変形しやすい金属への対応が可能
- 備考:機種名は導入工房によって異なる(※導入情報は不確定)
2. 真空+加圧型電気炉による拡散接合の高度化
拡散接合においては、酸化防止・均熱性・炉内圧力制御が品質に直結します。
● 導入機械例
◯ カトラー製「JUMBO-Vシリーズ」真空炉
- メーカー:カトラー炉材工業(Cutler Furnace Co.)
- 特徴:真空~最大0.1MPa加圧加熱対応、温度制御精度±1°C以下
- 適用例:海外のMokume Ganeジュエラー(James Binnion Metal Arts)が同型仕様を導入
- 利点:酸化を完全防止しつつ、均等に熱を与えるため、層の剥がれ・空隙の発生を防止
◯ エスペック製「PTU-121」真空熱処理炉(試験機向け)
- メーカー:エスペック(ESPEC CORP.)
- 特徴:最大温度1100℃、マルチステージ加熱可能
- 利用状況:大学・研究所・試作工房での導入例あり
- 注意点:量産にはやや不向きで、研究目的が中心
3. ロール式積層整形機による均一圧着整形
金属板の端面の波打ちを防ぐためには、ロールによる下地整形が有効です。
● 導入事例
◯ 三菱重工業製「HRM-100」精密ホットロール機
- メーカー:三菱重工業
- 用途:積層板の加熱成形時の整形・厚み均等化
- 特徴:温度可変型ヒートロール+厚み自動制御
- 備考:高額なため大規模工房向け(※個人工房では導入例不明)
◯ 小型代替案:アサダ製「ローラープレス AS-250」
- メーカー:浅田鉄工所(アサダ製作所)
- 特徴:手動制御可、鋼・銅用に適応可、板厚±0.01mm制御
- 使用例:個人工房レベルでの板整形や積層直前の下地処理に適応
4. 精密金属洗浄装置・酸洗いシステムの自動化
積層前の脱脂・酸洗浄は、拡散接合成功率に直結する重要工程です。
● 機械導入例
◯ 東静工業製「KSW-1000」超音波+酸洗自動装置
- メーカー:東静工業株式会社
- 特徴:多段超音波+酸洗+水洗自動処理ライン
- 効果:目に見えない酸化膜や有機物を除去し、接合率を20%以上向上(社内実験による)
- 導入例:ジュエリー製作現場や刀装具の金工工房
◯ 卓上型代替:Yamato Scientific製「UC-800」超音波洗浄槽
- メーカー:ヤマト科学
- 特徴:小型ながら超音波30kHz対応、500ml〜10Lクラス
- 用途:小型工房での前処理に最適
5. その他:温度・圧力の一元制御システム
積層〜加熱接合において重要な「一元的制御」には、以下のような制御盤・記録装置の導入が有効です。
◯ オムロン製「NXシリーズ」産業用I/O制御ユニット
- メーカー:オムロン
- 概要:圧力・温度・時間・湿度など複数制御信号を統合
- 用途:接合炉+圧着装置+脱気バルブ制御の自動化
- 実用例:高度工業系鍛金研究室や製品化企業が導入(具体企業名は非公開)
おわりに(第1回まとめ)
本稿では、木目金製作の起点となる「積層・鍛接段階」に焦点をあて、最新の機械導入事例を紹介しました。
特に、以下の4点が工作機械導入の鍵となっています:
- 高精度な圧力制御(プレス・ロール)
- 均質な温度分布を実現する炉技術
- 表面洗浄技術の進化(酸洗・超音波)
- 全工程を統合するIoT的制御