―伝統と科学が交差する“色彩の最終工程”―


目次
  1. はじめに
  2. 1. 電解着色・酸化処理による現代煮色の代替技術
    1. ● 目的:煮色と似た発色を、より再現性高く、制御的に実現
      1. ◯ TANAKA製「KMPシリーズ」貴金属電解酸化着色装置
  3. 2. 真空プラズマ処理装置による表面改質
    1. ● 目的:金属表面の不純物除去・酸化制御・煮色の“下地”制御
      1. ◯ ULVAC「PRIM-300」低温プラズマ処理装置
  4. 3. ナノスケールの表面制御技術:PVD・ALDによる皮膜形成
    1. ● 目的:煮色では困難な色調・耐久性を持つ“工芸的発色層”を形成
      1. ◯ KOBELCO製「KDF-800」PVD真空蒸着装置
      2. ◯ Oxford Instruments「FlexAL」ALD(原子層堆積)装置
  5. 4. 自動化煮色装置の試験導入と課題
    1. ● 目的:伝統技法「煮色(にいろ)」を一定条件下で再現
      1. ◯ SUGA TEST INSTRUMENTS「CNP-10」耐熱液循環炉+撹拌制御装置
  6. 5. 表面光沢調整・磨き機器の進化
    1. ● 目的:模様の視認性を高め、光沢と奥行きを最終調整する
      1. ◯ UJIDEN製「UMS-01」ミクロ研磨システム
      2. ◯ 日東精工「NPX-1100」エアバリ取り+マイクロブラストユニット
  7. 6. 着色+模様表現のハイブリッド:レーザー/インクジェットとの融合技術
    1. ● 目的:煮色層+模様層に、追加で色彩・テクスチャを重ねる
      1. ◯ Mimaki「UJF-6042MkII e」UVインクジェットプリンタ
      2. ◯ GF Machining「AgieCharmilles LASER P」レーザーテクスチャリング装置
  8. 7. 自動化着色プロセスと職人制御の“融合”
    1. ● 多段工程制御ソフト/研究用制御プラットフォーム
      1. ◯ KEYENCE「KV-8000」制御PLC
  9. 第3回まとめ

はじめに

木目金の魅力は、層模様だけではありません。
最終工程である「表面仕上げ・着色・煮色」によって、金属の質感・光沢・発色が整い、作品の“命”が吹き込まれます。

本来この工程は、煮色・磨き・化学反応を繊細に管理する伝統技法の集大成ですが、近年は表面制御に関する化学・物理・材料技術の進化により、再現性・耐久性・多様性が飛躍的に向上しました。

今回は、従来の技術を補完し、あるいは置き換える可能性のある最新設備の導入例を、実例や品番とともに紹介します。


1. 電解着色・酸化処理による現代煮色の代替技術

● 目的:煮色と似た発色を、より再現性高く、制御的に実現

◯ TANAKA製「KMPシリーズ」貴金属電解酸化着色装置

  • メーカー:田中貴金属工業
  • 特徴:電位制御により銀・銅・赤銅への電解酸化処理
  • 発色:紫・黒・灰・青緑系の煮色風仕上げを実現
  • 導入事例:大学工芸科での試験運用/ジュエリー製作所の一部で試験導入中(製品化例は不確定)
  • メリット:pH、電圧、温度を数値制御できるため、煮色よりも再現性が高い

2. 真空プラズマ処理装置による表面改質

● 目的:金属表面の不純物除去・酸化制御・煮色の“下地”制御

◯ ULVAC「PRIM-300」低温プラズマ処理装置

  • メーカー:アルバック株式会社
  • 特徴:真空下でアルゴンプラズマによる金属表面洗浄・活性化
  • 利点:煮色前に処理を加えることで、酸化の均一化・色斑の防止に寄与
  • 使用例:宝飾業界・工芸材料開発プロジェクト(2022年度経産省補助事業)
  • 備考:個人工房では高コストにつき、大学や連携機関での使用が中心

3. ナノスケールの表面制御技術:PVD・ALDによる皮膜形成

● 目的:煮色では困難な色調・耐久性を持つ“工芸的発色層”を形成

◯ KOBELCO製「KDF-800」PVD真空蒸着装置

  • メーカー:神戸製鋼所
  • 特徴:チタン・クロム酸化膜を数nm単位で堆積可能
  • 発色制御:干渉色を利用した多彩な光沢(青・金・茶・紫)
  • 導入例:木目金模様を活かした高耐久アクセサリーの実験試作(商業例は不確定)

◯ Oxford Instruments「FlexAL」ALD(原子層堆積)装置

  • 使用目的:特定金属への酸化被膜を1層ずつ制御して堆積
  • メリット:極めて高い膜均一性と密着性
  • 実用例:大学・研究施設において、四分一/赤銅表面への高耐久化研究が進行中(2023年現在)

4. 自動化煮色装置の試験導入と課題

● 目的:伝統技法「煮色(にいろ)」を一定条件下で再現

◯ SUGA TEST INSTRUMENTS「CNP-10」耐熱液循環炉+撹拌制御装置

  • メーカー:菅製作所(SUGA)
  • 特徴:温度精度±0.1℃、薬液撹拌、設定時間管理可能
  • 使用例:職人手作業の再現実験/ジュエリー開発試験室での導入
  • 備考:薬液の配合は工房・流派ごとに異なるため、完全な再現は困難で不確定

5. 表面光沢調整・磨き機器の進化

● 目的:模様の視認性を高め、光沢と奥行きを最終調整する

◯ UJIDEN製「UMS-01」ミクロ研磨システム

  • メーカー:宇治電機株式会社
  • 特徴:ダイヤモンド研磨材+可変速モータ+湿式バフ対応
  • 効果:模様の立体感と“浮き上がり”の演出に最適

◯ 日東精工「NPX-1100」エアバリ取り+マイクロブラストユニット

  • 用途:細部の光沢調整/模様を壊さない“柔らかいバフ”として
  • 利点:力加減を必要とせず、反復作業に向く

6. 着色+模様表現のハイブリッド:レーザー/インクジェットとの融合技術

● 目的:煮色層+模様層に、追加で色彩・テクスチャを重ねる

◯ Mimaki「UJF-6042MkII e」UVインクジェットプリンタ

  • 用途:木目金プレートへの“微細カラーグラデーション印刷”
  • 応用例:アートパネル・建材表面装飾など(工芸作品に採用されつつある)

◯ GF Machining「AgieCharmilles LASER P」レーザーテクスチャリング装置

  • 金属表面にマット・ヘアライン・凹凸模様を再現
  • 使用例:模様上に追加加工で“光の角度によって見える層”を演出

7. 自動化着色プロセスと職人制御の“融合”

● 多段工程制御ソフト/研究用制御プラットフォーム

◯ KEYENCE「KV-8000」制御PLC

  • 金属温度・pH・電圧・気流・時間などを統合制御
  • 応用例:「自動煮色再現」プロジェクト(実証段階、詳細非公開)

第3回まとめ

表面仕上げ・着色・煮色は、木目金の美的印象を決定づける仕上げ段階です。
その一方で、伝統技法ゆえに再現性に乏しく、作業者の経験と感覚に強く依存してきました。

現代では、次のような革新が進んでいます:

  • 電解酸化やPVDにより、「煮色風仕上げ」を再現可能に
  • プラズマ洗浄で不純物除去 → 発色の安定化
  • 真空制御・自動撹拌による煮色工程の再現性向上
  • ナノ単位の被膜による新たな色彩表現