- はじめに
- 1. 木目金(もくめがね/Mokume Gane)
- 2. 積層(せきそう/Lamination)
- 3. ろう付け(ろうづけ/Brazing)
- 4. 拡散接合(かくさんせつごう/Diffusion Bonding)
- 5. 赤銅(しゃくどう/Shakudō)
- 6. 四分一(しぶいち/Shibuichi)
- 7. 模様出し(もようだし/Pattern Reveal)
- 8. 削り出し(けずりだし/Carving)
- 9. 彫り(ほり/Engraving)
- 10. ねじり(Twisting)
- 11. 煮色着色(にいろちゃくしょく/Ni-iro Coloring)
- 12. 杢目(もくめ/Grain)
- 13. 年輪模様(ねんりんもよう/Ring Pattern)
- 14. 渦巻き模様(うずまきもよう/Spiral Pattern)
- 15. 波紋模様(はもんもよう/Wave Pattern)
- 16. 断面(だんめん/Cross Section)
- 17. 地金(じがね/Base Metal)
- 18. ろう材(ろうざい/Brazing Alloy)
- 19. 拡散層(かくさんそう/Diffusion Layer)
- 20. 模様パターン名(パターンネーム)
- 【おまけ】現場でよく使う“職人用語”や豆知識
- 注意点・不確定情報の記載
- まとめ
はじめに
木目金(もくめがね)は、日本の伝統金属工芸のなかでも技術用語・素材名・工程名が多岐にわたり、初学者には難解に感じられることも少なくありません。
ここでは、現役職人の視点から「木目金」を学ぶ・楽しむために必ず知っておきたい20の専門用語を、簡単な解説+実際の現場での使われ方や注意点とあわせてご紹介します。
不明確な点や議論のある語には、その旨も明記します。
1. 木目金(もくめがね/Mokume Gane)
定義:複数の金属を積層・加熱圧着し、削り・彫りなどの加工で木目模様を出す技法。
英語でも“Mokume Gane”で通じます。
2. 積層(せきそう/Lamination)
定義:異種金属の板を交互に重ね、加熱・圧力をかけて一体化させる工程。
層の数や厚みはデザイン・用途によって異なります(10層~40層超が一般的)。
3. ろう付け(ろうづけ/Brazing)
定義:金属同士を溶接する伝統技法のひとつ。木目金では積層した金属板同士をろう材(低融点合金)で接合する場合も。
※現代では「拡散接合」を多用。
4. 拡散接合(かくさんせつごう/Diffusion Bonding)
定義:異なる金属を高温・高圧で加熱し、分子レベルで一体化させる接合方法。
“ろう”を使わずに金属同士が溶け合うイメージ。
5. 赤銅(しゃくどう/Shakudō)
定義:主に銅に金(0.5~5%程度)を加えた合金。
煮色着色によって深い黒色が出る、日本独特の伝統金属。
6. 四分一(しぶいち/Shibuichi)
定義:銀(25%)と銅(75%)の合金。灰紫色や青灰色の発色が特徴で、木目金の模様に落ち着いた色合いを与える。
7. 模様出し(もようだし/Pattern Reveal)
定義:積層金属を削る・彫る・ねじる・叩くなどして木目模様を表面に現す工程。
職人のセンスと偶然性が強く反映される。
8. 削り出し(けずりだし/Carving)
定義:ヤスリや刃物で金属表面を削り、内部の積層模様を出す作業。
年輪や波紋、渦巻き模様など多彩なパターンが生まれる。
9. 彫り(ほり/Engraving)
定義:タガネや彫刻刀を使って部分的に模様を深く掘り下げる作業。
彫金(ちょうきん)とはやや異なり、木目金では模様をより立体的に強調する技法。
10. ねじり(Twisting)
定義:積層ブロックや棒状の素材をねじることで、渦巻き状・螺旋模様を作る工程。
「ねじり木目」「渦巻き模様」などとも呼ぶ。
11. 煮色着色(にいろちゃくしょく/Ni-iro Coloring)
定義:伝統的な日本の金属着色法。
薬品や湯で煮ることで、赤銅や四分一などの合金に黒・青・茶などの発色を与える。
12. 杢目(もくめ/Grain)
定義:木の年輪や木肌を思わせる模様。
木目金では、この模様を金属で表現することが主眼。
13. 年輪模様(ねんりんもよう/Ring Pattern)
定義:木目金の基本模様のひとつ。積層方向を工夫しながら削ることで“木の年輪”のような円形パターンが現れる。
14. 渦巻き模様(うずまきもよう/Spiral Pattern)
定義:ねじり工程を加えることで現れる、渦や螺旋のようなダイナミックな模様。
15. 波紋模様(はもんもよう/Wave Pattern)
定義:表面を波打つように削ることで生じる、水面のさざ波のような模様。
16. 断面(だんめん/Cross Section)
定義:積層ブロックの切断面。
本物の木目金は「表面だけでなく断面にも層構造が連続」しているのが特徴。
17. 地金(じがね/Base Metal)
定義:木目金において積層素材の「ベース」となる金属。
仕上がりや加工性に大きな影響を与える。
18. ろう材(ろうざい/Brazing Alloy)
定義:「ろう付け」に使われる低融点合金。
素材や温度帯によって使い分けられる。※現代は使わない流派もある。
19. 拡散層(かくさんそう/Diffusion Layer)
定義:積層金属同士が高温で“境界部分”で混ざり合ってできる層。
職人によっては「境界模様」「中間模様」とも呼ぶ場合あり(名称には諸説あり)。
20. 模様パターン名(パターンネーム)
例:「木目」「渦巻き」「雨」「雲」「波」「斑点」「石目」「流れ」など。
各工房や作家ごとに独自の呼び名・パターンも多い。不確定な場合は作家本人に確認推奨。
【おまけ】現場でよく使う“職人用語”や豆知識
- 「一発勝負」:木目金の模様出しはやり直しがきかない。だからこその緊張感と美しさ。
- 「割れ」や「剥がれ」:積層接合不良や削り過ぎで起こる失敗。修正には高い技術が必要。
- 「コバルト合金」「チタン」:現代作家の間で新素材として注目。伝統工芸士会では「新技法」として扱われることも(定義には議論あり)。
- 「積層枚数」:模様の細かさに直結。多ければ多いほど繊細だが、加工難度もアップ。
注意点・不確定情報の記載
- 一部用語(例:拡散層・パターン名・現代素材の呼称)は、工房や流派、現代作家ごとに異なる場合あり。不確定な情報はその旨記載しました。
- 歴史的経緯や発祥地なども諸説あるため、随時アップデート予定。
まとめ
木目金の世界は、用語ひとつひとつにも長い歴史と現場の知恵が詰まっています。
初学者の方はもちろん、プロの方も今一度「専門用語」の意味や現場での使われ方を意識し、
より深い木目金の魅力・技法に触れてみてください。
【参考文献】
2000年4月9日付 朝日新聞 東京地方版/秋田 29頁、
2001年9月1日付 朝日新聞 東京地方版/秋田 32頁、
2004年8月28日付 朝日新聞 東京地方版/秋田 26頁、
2009年11月6日付 朝日新聞 大阪地方版/石川 30頁、
2005年10月19日付 毎日新聞 地方版/秋田 24頁、
「宝石の四季」 No.198、 No.199
「技の伝承 木目金の技法について」
アートマニュアルシリーズ メタルのジュエリークラフト
「人間国宝・玉川宣夫作品集」燕市産業資料館
「金工の伝統技法」香取 正彦,井尾敏雄,井伏圭介,共著
「彫金・鍛金の技法I・II」 金工作家協会編集委員会編
Wikipedia(ウィキペディア)
「金工鐔」光芸出版
MOKUME GANE JEWELRY HANDBOOKS (IAN FERGUSON著)
Mokume Gane – A Comprehensive Study (Steve Midgett著)
Mokume Gane. Theorie und Praxis der japanischen Metallverbindungen (Steve Midgett著)
Mokume Gane: How to Layer and Pattern Metals, Plus Jewelry Design Tips(Chris Ploof著)
※髙田邦雄の許可無く本文書の一部あるいは全文のコピーならびに転用を禁じます。