三つの正倉院
日本人は、山林に豊富にある木材を利用することで、地勢にあった資源を有効活用しています。また日本は高温多湿の季節があるため、欧米のように石で作られた建物は、風土にあっていません。すでに奈良時代には、自らが湿度を調整する能力を持っている木材の特性を利用した建築工法が取り入れられました。奈良県奈良市の東大寺にある正倉院(しょうそういん)は、大規模な高床の校倉造り(あぜくらづくり)の倉庫で、聖武天皇ゆかりの品をはじめ、天平時代の美術工芸品を収蔵している施設です。校倉造りは、三角や四角に製材した手作りの木材を水平に積み重ね、建物の角で木材を交差させてかみ合わせる工法です。湿度が高い場合には木材が吸湿して膨張し、乾燥時には収縮することで、内部の湿度が上がることを防ぐ木の性質を考慮した素晴らしい工法です。正倉院は東大寺の一部としてユネスコの世界遺産(文化遺産)にも登録されています。広く知られてはいませんが、正倉院は日本国内にあと二つ存在します。九州山地の東麓で宮崎県中央部の美郷町南郷区に位置する西の正倉院、もう一つは福岡県宗像市の沖ノ島にある海の正倉院です。いずれの正倉院にも、当時の権力者に関わる品々が収蔵されています。奈良の正倉院には、書巻や楽器、薬物、武器類などが、西の正倉院には銅鏡が、海の正倉院には、金の指輪など百済由来と考えられる宝物が所蔵されています。銅鏡や指輪が誰に献上されたものかは定かではありませんが、細部まで手作りされた宝物は、奈良時代の日本を研究する上で非情に貴重な資料です。